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食学序説
 食事問題に関する客観的法則の提示 
劉 廣偉
要旨
中国には「民は食を以て天と為す」(人の命には食べ物が欠かせない)という諺があるが、なぜ「民は農を以て天と為す」とは言わないのか。その理由を探ると、農事は食物を中心とするのに対して、食事は摂食者を中心とするからである。農学は食物生産から確立された知識体系であるが、食学は食べる人の需要から確立された知識体系だからである。農学は約1万年前から続いた食物順化を対象とする学問であるが、食学は約550万年もの進化史をもつ人類個体の生存と持続、集団の調和と共存、個体群の持続可能な発展を研究対象とする学問である。農学は食事に対する部分的認知であり、食学は食事に対する全面的認知である。食学は人類におけるあらゆる食事問題を網羅したより大きな知識体系であり、人類の食事問題を解決するための世界的な公共的所産である。
現代社会において、食物生産に関する認識と食物利用に関する認識は分離している。これによってもたらされた社会問題は、益々深刻になり、益々学界の注目を集めている。
食学は食事学の略称である。本論は、食学という自主的知識体系の基本内容を解説し、食学科学体系の定義、役割、構造から始め、「3-13-36」という食学基本科学体系を解説したうえで、食学科学体系の構築がもつ重要な意義を述べるものである。
キーワード:食物 摂食者 食事 食学 食事問題 知識システム

一、食事問題の総体性について

 食事問題の総体性とは、問題の各部分間における関連性を指す。食事問題は人類の生存、発展及び持続における矛盾の最たるものであり、食事問題は文明の進歩に伴って減少するのではなく、むしろこれまで以上に更に複雑化しつつある。多くの食事問題は、現代における文化や科学技術環境の中で新たに発生したことなので、既存の関連分野によって、全面的かつ完全に解決することはできない。中国の諺に「民は食を以て天と為す」とあるが、なぜ「民は農を以て天と為す」とは言わないのか。なぜならば、農事は食物を重心に置くのに対して、食事は摂食者を重心とするからである。農事は食料生産の視点から確立された概念であるが、食事は摂食者の需要から確立された概念である。農事は1万年から続いた食物の馴化を主要な内容とするが、食事は人類の生存と健康を主体とした約550万年に及ぶ進化史であることが理解できる。人類には「食」に関わる問題がどれくらいあるのか。それは、「農」の角度だけでは数えきれず、「食物」の角度だけでも数え切れず、「食事」の角度からしかすべての問題が明らかにできない、と考えられる。食事問題は27億トンの食糧だけでなく、80億人の健康長寿、世界平和、さらに人類の持続可能な発展まですべて関連している。

(一)食事と食事問題概念の確立
  現実として、食物獲得問題と摂食者健康問題とは相互に関連する一体のものであり、分割ができない。例えば、食物の供給量に問題があれば人々は飢餓状態に陥るし、食物の品質に問題があれば腹を壊してしまう。食物獲得は摂食者の生存と健康のためであり、摂食者の生存と健康を維持するために食物を獲得するので、二者は一体なのである。喩えて言えば、食物生産問題と食物利用問題は同じ「大鍋」に共存しており、この「大鍋」の中には食料供給問題のみならず、摂食者の需要問題や秩序問題もあるのだ。それは総体的、大体系であり、この「大鍋」には550万年以上の歴史がある。それは客観的存在であったのだが、われわれはずっとそれを発見するに至らなかった。そのため、この「大鍋」をどう表現すればよいのかという概念がなく、名前もないまま今に至ったのである。では、この「大鍋」は何という名で呼ぶべきだろうか。
  大義名分がなければ筋が通らない、この「大鍋」に名を付けることは、それを認識する第一歩である。食物、食品、摂食、農事、農業、栄養、養生などの言葉で命名するのは適当ではない。これらの概念はすべて狭く、小さいし、それらの外延はすべてこの「大鍋」を全面的に反映するに至らず、この対象物を正確に表現することができない。我々には新概念が必要なのだ。そのため、筆者は古代中国語から「食事」という言葉を借用し、この「大鍋」に名付けた。一方、英語にも「食事」に対応する言葉がないので、「食」という中国語のピンイン表記「shi」と英語の接尾語「-ance」を組み合わせて「shiance」という言葉を新たに創り、「食事」の英語訳語とする。食事(Shiance)という概念の確立によって、我々は人類と「食」とが関係するすべての活動や現象を全面的に表現することが可能となり、人間がそれを知り、分析し、研究することができるようになった。食事(Shiance)概念の確立は、人類が客観的世界観を認識する新しい重要な一里塚である。
  食事問題(shiance issues)は、人間が食物を獲得し利用する過程において遭遇する、あらゆる矛盾と困難である。食事問題は人類の生存性、本質性、持続性に関わる問題である。国際連合が採択した2015-2030持続可能な開発目標(SDGs)17のうち、実に12目標が食事と密接に関連している。現在人類が直面している環境、人口、資源、貧困、平和等五大問題の中で、人口と貧困問題における主要な内容が食事問題なのである。人類文明における三大パラダイムである農耕文明、遊牧文明、漁猟文明はいずれも食事名である。文明の源は食事問題への対応であり、食事問題は文明持続を下支えしているのだ。食事問題は、文明との関係において過小評価されている。
  食事問題は膨大な体系である。大きな食糧問題とは即ち食物問題であり、大きな食物問題とは即ち食事問題である。ゆえにここから導かれるものは、「食物問題>食糧問題」、「食物問題>食品問題」、「食事問題>食物問題」である。即ち「食事問題=食の問題+食物問題+食者問題」なのである。
  民は食を以て天と為す、この「天」の大きさは一体どれくらいだろうか?世界からみると、「食事問題」は27億トンの食糧のみならず、80億人の生存と健康にもつながっている。健康管理において、食事問題は主として病をもたらす面と病を治す2方面がみられる。健康管理戦略は「予防第一」である。食病、食事療法などの食事管理は健康管理の上流にあり、「予防第一」という戦略の重要な「手掛かり」である。つまり、健康管理は病前管理と病後管理の二つの段階に分けられ、医学は病後管理に関わる知識体系であり、食学は病前管理に関わる知識体系なのである。さらに、病後管理の段階においても、食養食療が欠かせない。合理的な飲食は生存と健康の基礎であり、空腹を満たすことは食物の数量問題であり、良質な食事をすることは食物の品質や種類の問題であり、食から健康をもたらすことは食方法の問題である。食学は人間が生まれてから死に至るまで、その一生に関与するものである。医学は人生の一部、すなわち病を得た時のみに関わるものである。食事は病状変化や栄養補給という作用のほかに、疾病発症と治療後及び健康との関係においてしばしば軽視される。健康管理は医療に留まらず、またただ医療に頼るだけでは不十分であり、系統的な食学知識体系が必要となる。
  常識から我々が学ぶことは、高所に立つことで多くの問題が見つけられるということだ。全角度に立ってこそ局部的問題を発見することができ、食事の立場に立ってこそ農事問題が見えてくるものだし、食業の角度に立てば農業問題が発見できるのである。「食糧問題」から「食物問題」、さらに「食事問題」へ、これが部分認識から全体認識へと至る昇華である。

(二)食事認知の分散性
 上述した分析から分かるように、食事は一つの総体であり、食事問題も一つの総体である。しかし、人類は食事・食事問題の認知に対して、まだ全体的な知識体系を形成していない。我々が人間の食事認知を観察する場合、時間と空間との二つの角度から分析することができる。時間の角度から見ると、食事に対する認知は一度として途切れたことがない。その際立った特徴が最大化され、食事の認知が人類文明の前進を推し進める重要な力となっている。空間の角度から見ると、どの国や地域の人でも、生きていくために食事認知から離れられない。その突出した特徴が細分化され、食事に対する認知は、それぞれの国・文化を構成する重要な内容の一つとなった。
 産業社会が始まって以来、人々は食事認知の内容に対して分類を行ない、農学、食品科学、栄養学などの知識体系を現代科学体系のなかで順次確立し、その領域内における食事認知を大いに推し進め、より多くの食事に関する客観的法則を明らかにし、人類の食事問題、特に近代社会における人口爆発による、食品需要の大幅な増加問題を解決するために大きな貢献をした。
  しかし、このように分類された食事知識体系にも、いくつかの問題が生じている。一つは、主に食物生産側に集中し、食物利用については比較的脆弱であること。第二に、農学、食品科学、栄養学がそれぞれ異なる上位科学に属しているため、相互間の空白が多すぎること、である。つまり、現代の科学体系の中では食事認知はまだ分散化していて、人類の食事問題全体をカバーしていない状態である。現代社会では、食物生産と食物利用の認知分離がもたらす社会問題は、ますます深刻化し、それがさらに広く注目を引いている。
  日本の教育界では、食事に対する全体的認知をすることが、すでに多くの大学で注目され始めている。例えば、宮城大学は農業経済学科、食品経済学科、環境システム学科という三つの学科で構成された「食品産業学部」を設置した。東洋大学は「食」「栄養」「健康」に関する学科を連系させ「食環境科学部」を設置した。東京農業大学は、21世紀における人類と地球とが直面している問題から、「食料」「環境」「健康」「資源」などの課題をつなげて観察する「食と農」の博物館を設立した。龍谷大学は、人の命を育むために不可欠な「食」と「農」の2つの要素から出発し、「生産」「栽培」「収穫」「加工」から「流通」まで一連の要素を連結して、「食の循環」プロセスを発表した。立命館大学は「食学科」を指す「食マネンジメント学部」(College of Gastronomic Arts and Sciences)を創設し、総合的な知識体系を構築した。すなわち、1.フードマネージメント分野。「食」に関わる組織や企業の経営法、政策などを学ぶ。2.フードカルチャー分野。文化、地理、歴史的な視点から世界各国の食文化を学ぶ。3.フードテクノロジー分野。食材そのもの、体内摂取機能、安全で美味しく食事する方法・手段などを学ぶ。 上述した六大学の学部、学科、さらにカリキュラム設置の変化を見ると、いずれも客観的なニーズに基づき、従来の「食」の学科分野を拡大しており、縮小する学校はみられない。このように「食」領域に対してその範囲を拡大するような実践は、食事問題の総体的な認知に対する積極的なアプローチである。

二、食事認知全体の知識体系構築について
  いかに人類の食事について、全面的かつ正確に認識できるだろうか?いかに人類文明の進化における食事の価値がどれほど重要であるか、正確に認識できるだろうか?人類の食事に対する共通認識の大きな力をより良く発揮できるだろうか?人類が直面している数多の食事に関する課題を、いかにより適切に解決していくことができるだろうか?従来の伝統的な認識体系に頼るだけでは不十分なのである。客観的に食事全体へ対応するためには、食事認知の総体的な知識体系を確立する必要がある。前述したように、「食事」という対象を「大鍋」に喩えた。では、我々は食事認知の知識体系を「大鍋の蓋」に喩え、「大鍋の蓋」でもって「大鍋」にかぶせることとする、この「大鍋の蓋」は、何と名付けようか?もちろん「食事」を認知する知識体系であるので、「食事学」と命名し、略称を「食学」としよう。
  食学は、食事を研究対象とし、人類の食事問題に対する全体的な研究を展開するとともに、これにより知識体系を構築するものである。食学は、食事問題に対応することを目的として、食事問題の法則形成を明らかにした、新たな性質の内容をもつ総全体的知識体系である。食学科学体系の構築には莫大な価値があり、それは人類の現在と将来の食事問題を解決するための「金の匙」であり、人類の食事問題を解決する地球規模の公共財産なのである。
  科学とは、「自然、社会、思考などの客観的法則を明らかにする知識体系」であると『現代中国語辞典』にある。簡潔に言えば、科学は客観的な法則を提示する知識体系である。名詞としての科学は知識体系であり、客観的な法則分科を提示する知識体系である。ここには三つの条件がある。
  1.客観的法則の提示
2.科目を分かつ
3.知識体系の形成
  本論では、Scienceの語源の意味で、現代の「科学(Science)」という概念の内在的要素と外延を規定することには、同意しかねる。時間、空間及び研究パラダイムなどの要素を今日にもってきてみると、全てが科学(Science)という概念を定義するには非必要条件だからである。これらの非必要条件と必要素と外延とを正確に規範化することは、人間が客観世界をよりよく認識すること条件とすることは、客観的な法則の発見を妨げる恐れがある。科学(Science)という概念の内在的な要に役立つのだ。

(一)食学の定義
 食学科学の創設において、最初に直面する問題は食学の定義である。正確な定義概念がなければ煉瓦同然であり、何の役にも立たない。食学の定義を正確に確立するために、論理学に依拠して、関係、機能、本質、発生の四次元から分析することにより、この知識体系の内在的要素と外延とをより正確に定めることができる。 
  本質という角度から定義すれば、食学は人類の食事に対する客観的な法則を明らかにする知識体系である。食学は人類の食事に対する認知に基づく一連の概念や判断によって構成される、非常に綿密なロジックをもち合わせた知識体系である。また、食学は生存という視座から出発し、食事内容を研究して食事法則を発見する知識体系である。
  機能という角度から定義すれば、食学は人類の食事問題解決を研究する知識体系である。問題解決の前提とは問題を認識することであり、問題を認識する目的は問題を解決することである。食学は食事問題を認識する過程において、食事問題の解決を目的とする知識体系である。そして、人類の食事問題を解決することが、食学存在の唯一の理由なのである。
  関係という角度から定義すれば、食学は人類食事行為の発生、発展、及びその法則を研究する知識体系である。 食学は人類の食事行為と食事問題との間の因果関係を研究する知識体系である。食学は人類が伝承してきた正確な食事行為・不当な食事行為の矯正・持続可能な発展を維持していく知識体系なのである。
  発生という角度から定義すれば、食学は人類食事行為の発生・発展及びその法則を重んじる知識体系である。
  食学定義の確定は、科学の本質属性と科学的性質を明確にし、また科学的研究方向・内容・任務をも明確にした。
  「食学」の英語訳について、既存の英語に対応できるものがないため、2013年に「Eatlogy」という英単語を創出した。これは、英単語の「eat」と「-ology」とを組み合わせて、中国語の食学の翻訳として用いることとし、すでに何度も公式使用されている。その後、食学の研究が進むにつれて、食学の下部学科である「摂食学」が誕生した。そこで「食学」と「摂食学」の翻訳問題を解決するために、2021年8月に出版された『食事問題概論』で、新たに「Shiology」という新語を初登場させたが、これは中国語の「食」のピンイン「shi」と、英語の「-ology」とを組み合わせたもので、「食学」の英訳として用い、元の「Eatlogy」は「摂食学」の英訳として用いることとした。
  農学とは、「作物の栽培、育種、土壌、気象、肥料、農業害虫などを包括する農業生産を研究する学科」とある(『現代漢語辞典』第7版)。農学とは農業科学の略称で、農業を研究対象としている。農学は動植物の繁殖を研究する人工制御であり、動植物の馴化を研究する知識体系である。農学は食事の部分的認知であり、食学は食事の総体的認知である。農業は各国国民経済において表述が異なり、内容や範囲も異なるため、農業の定義における内在的要素と外延との異なりを惹起するのだ。

(二)食学の役割 
  食学の科学的問題は「どのように食事と文明との関係を構築するのか」ということである。その問題には、3方面が含まれている:食事と個体との関係、食事とグループとの関係、及び食事と個体群との関係という3点の面が含まれる。食学の基本的な役割とはすなわち、個体寿命の延伸、社会秩序進化の促進、個体群の存続維持、である。
  食学の第一の基本的任務とは、人類個体寿命の延伸である。即ち、一人ひとりの食事健康寿命を延長することである。ゆえに、「食学は大衆のための学問であり、国民のための学問である」といえるのだ。食べることと個体の健康との関係には、三点すなわち、食物量・食物品質・食方法の側面である。まず、食物その供給量を保障する必要がある。国際連合食糧農業機関(FAO)の統計によると、2022年の世界穀物総生産量は27.64億トンになると予想され、世界人口を80億と計算すると、穀物量は一人当たり345.5kgにも達する。しかし、貧富の差や食物ロス、食物の他の用途転化、不均衡、不十分といった問題が非常に深刻であり、8.21億人もの人々が今なお飢餓状態に置かれている;次に、食物品質の安全性に対する保障が求められる。現代の食物生産における食物品質の脅威は、一つは汚染、次に化学物質の過剰使用である。食物は、その生産、加工、運輸等の過程の各部分において、この二つの安全が脅かされている;三番目は、正確な食方法の選択である。食から健康をもたらすのに、ただ食物の量や質の保障をするのみでは不足であり、さらに正確な食方法も必要である。空腹を満たすことは食事の量的問題であって、良質なものを食べることは食物の品質や種類の問題である、なぜならば、健康的に食べることは、食べ方の問題である、というのは食べ方で病に至ることもあれば、疾病を治すこともできる。あなた自身が満足するのと、皆とは、異なる胃腸や身体の必要性に応じているのであり、食前・食中・食後の三段階において全体を管理し、各個体の身体的差異を尊重することが、食方法の核心的内容となる。食学は、人類を指導して哺乳動物として持つべき寿命まで生きさせるだけでなく、哺乳動物の中で最長寿命まで生きさせるように、食方法を指導するのである。
  食学の第二の基本任務とは、社会秩序の進化である。食事秩序は、人類の食事の条理性と連続性であり、人類社会全体の秩序の基礎でもある。調和のとれた公正な世界の食事秩序を構築することは、人類社会調和の基礎である。食物資源の分配は人類社会秩序の起源であり、食物不足、不均等な食物資源独占は、人類社会で衝突が起きる主な要因である。中国の歴史から見ると、歴代の農民蜂起はみな食事によって起こされたものだ。人類の科学と経済、加えて交通と貿易の発展に伴い、世界の食事秩序形成も加速している。いかにこのシステムを積極的に研究、制御するのか、いくつかのビジネスグループの取締役会が世界食秩序の限界から抜け出し、80億人の利益となる世界食事秩序を打ち立て、食物生産と分配をより均等化し、それによって食物資源を原因とする衝突を減らすこと、どの人にも空腹を満たし、より良く食べ、食から健康寿命を延ばすこと、この調和のとれた食事秩序により、人類社会全体に秩序という進歩をもたらすのである。
  食学第三の基本任務とは、個体群存続の維持である。550万年以来、約1076億人が地球上で暮らしてきた。2022年11月に世界総人口が80億人を突破したが、世界総人口が100億クラスに入ると、歴史上どの時期とも比べられず、食料需要量が歴史上未曾有の高さになる見通しである。食糧需要の大幅な増加に従って、食物母体生産能力が臨界点に達する恐れがある。それによって、食物資源の希少性が更に明らかとなり、人類の食事と生態系間との衝突が日増しに激化している。食物資源と人類の食料需要間との均衡が崩れると、人類の文化と文明は、巨大な脅威に晒されるようになる。これは、人類の持続可能な発展を脅かす重要な要素である。人類の持続可能な発展を脅かすのは、炭鉱、電力、石油、天然ガスなどの資源ではない。これらの資源はすべて生活資源であり、生存資源ではない。国際連合が発表した持続可能な開発目標(SDGs)の17目標のうち、実に12目標が食事と関連している。食事問題に有効的な解決がなされなければ、持続可能な発展も実現不可能なのだ、と言える。

(三)食学の構造
  知識体系を構築するには、ミリマリズムの原則に従う必要がある。筆者はこれまで食生産、食生活、食思想、食文化など多くの角度から試みたが、「極めてシンプルに全体をカバーする」ことには至らなかった。最終的には摂食者健康、食物獲得、食事秩序の三要素を選択し、食学の基本構造を構築した。この構造はすべての食事問題をカバーすることができ、食事認知体系という大きな網を統べることができる。この三者間の関係と機能とを正確に表現するため、また記憶しやすくするため、本論では摂食者健康、食物獲得、食事秩序を三角形に構成し、「食学三角」と命名した(図1を参照)。
1 図中の「摂食者健康」(食者健康)は人間の角度から出発し、人間の需要から出発し、また人間の食事による健康から確定したものである。食物が口に入ってから、吸収、利用、排泄されるまでの過程は、人体内部の10メートルに満たない距離で、とても短いものの、その内在的要素は非常に豊富であり、身体構成、エネルギー放出、情報伝達、排泄物の排出などを包含している。それは無限の謎に包まれていて、生存、健康、長寿という三つの面を含んでおり、食物利用の効率を示している。
  図中の「食物獲得」とは食物の角度から、食物を摂取することをいう。これは、食物の源から食卓まで続く非常に長いラインであり、食物の直捕、馴化、加工、流通などの領域を含む。これは非常に巨大な産業であり、本論では「食業」と称す。食物獲得は人類の食物の質と量とを保障するための領域であり、食物生産の効率をあらわす領域でもある。
  図中の「食事秩序」とは、人間の食事行為の角度から、人類の内部と外部との関係という角度からのものである。食事行為を規範化することを通じて三大矛盾を調節するものである。第一に;食物獲得と食者健康との間にある矛盾と衝突とを調整すること;第二に;グループ間における矛盾と衝突とを調整すること、第三に;人類の食事と生態系との衝突と矛盾とを調整すること、である。食事秩序を規範することは、経済、法律、行政、教育、習俗等の多方面に関わるものであり、その核心は正しい食事行為を伝承し、不適切な食事行為を矯正することである。
  上図から、摂食者健康とは中核的なもので、食物獲得と食事秩序は、いずれも摂食者健康のために働くものであるということが読み取れる。すなわち、食物獲得と摂食者健康との関係は、手段と目的の関係であり、すなわち食物獲得とは摂食者の健康のためであるということである。その根本には食物供給の質と量が存在している。これより以前には、摂食者健康、食物獲得、食事秩序の三者間の認識は分裂・分散的であり、それぞれに言い分があり、独自に歩んできていて、自らの理論体系内においては、各々が絶対に正確であると主張してきた。が、この三者が一体となった後は、「盲人、象をなでる」のような矛盾、これまで体験してきた認知のズレと空白があることに気付かれるだろう。と同時に「別世界を発見した」かのような驚きもあり、以前からの多くの問題や難問が「なんだそうだったのか」という発見もあるのだ。

(四)食学科学の基本体系
 食事という対象を全面的に認知するには、食事を全面的にカバーする知識体系を構築する必要がある。これは、膨大な知識体系である。食学学科の基本体系構成は「3―13―36」であり、これは食学、食学二級学科、食学三級学科と食学四級学科から構築された四階層の体系である。その中の「3」とは、三つの二級学科、即ち食学三角を支える摂食者健康学、食物獲得学、食事秩序学を指す。「13」とは食物生態学など13の三級学科を指す。「36」とは、食物栽培学など36の四級学科を指す。これは食学基本体系の第一版であるが、今後とも研究を進めるにつれて更新が期待される。
2図2.「食学三級学科体系」

 

 

 

 

 食学の二級学科は、摂食者健康学、食物獲得学、食事秩序学という食学三角系の三つの視点から構成されている。また、食学の三級学科は13の食事パラダイムによって構成されるる知識体系である。(図2を参照)

1.摂食者健康学
  摂食者健康学とは、人体の生存と食物・食方法の間に存在する関係及びその法則を研究する知識体系である。摂食者の健康学とは人間本位の知識体系であり、植物利用に関する各分野のあらゆる認知を網羅している。食物利用は、人類の食事の核心である。一般的に、あらゆる形式の食物獲得の最終的な目的はすべて食物利用であり、食物利用効率は摂食者の健康長寿を体現している。摂食者健康学の本質は、食物だけではなく食べ方・摂食障害・食餌療法などの方面から、各個人の健康長寿について研究されている。摂食者健康学には「二重認知食物」「二重認知身体」「食は医学の前」「飲食三段階」「食事の五覚審美」「六種の食病」「三種の食療」などの観点があり、この学科には豊富な内容が揃えられている。摂食者健康学は、摂食者健康学・食物成分学・摂食学の3部門三級学科を管轄下に置いている。

 (1)摂食者需要学:人の身体構造、属性と食物との関係や、法則を研究する知識体系である。人間は個体ごとに異なるものであり、摂食方法の需要もまた異なる。摂食者需要学とは需要グループ共通性という基礎のもと、個体需要の差異性を研究するものである。摂食者需要学は以下2部門が管轄する:食者体性学、食者体構学。なお、摂食者需要学は東方・西方ともに認知融合がなされている知識体系である。
 (2)食物成分学:食物に内在するすべての特徴及びその法則を研究する知識体系である。食物に含まれる各種の人体に働く成分について、より多くの角度からそれらを認識すべきであり、ただ視覚的認知の結果だけに限るべきではない。食物成分学には次の二つの学科が属している:食物元性学、食物元素学。食物成分学は東方と西方の認知が融合された知識体系である。
 (3)摂食学:摂食学は、食物転化学とも呼ばれており、食べることと個体の健康や長寿との関係及び法則を研究する知識体系である。また、食べ物、食方法及び身体の健康や長寿との関係や、その法則を研究する知識体系でもある。如何に食事から健康や長寿をもたらし、如何に自己を養うのかを研究する。食べることは身体機能を維持し、飢えを満たし、疾病を治療する役割を果たす一方、疾病を起こす可能性もある。摂食学は下位に5学科がある:摂食方法学、摂食美学、摂食病学、偏性物食療学、合成物食療学。摂食学は新たに構築された知識体系である。

2.食物獲得学:食物取得と関連する認知を全て網羅する知識体系である。食物獲得は歴史の長い行為であり、人類の生存と発展と共に進んできた。仮に、原始人類の天然食物の採集、狩猟、補撈、から数えてみると、すでに数百万年の歴史をもつ。しかし、食物獲得学の確立は現在になってからのことである。食物獲得学は550万年の歴史空間に着目し、人類の食物獲得行為の客観的法則を研究するものである。食物獲得学は農業と異なり、より高度な視点と広い視野を持つ。食物獲得学には、食物生態学、食物直捕学、食物馴化学、人造食物学、食物加工学、食物流通学、食事器具学の七門三級学科が属している。
 (1)食物生態学:人類と食料源との関係や法則を研究する知識体系である。食料源の角度から人類の食物が地球生態系に依存する関係であることを研究し、人類の食事が生態系を妨害していることを研究し、食物生態系の持続性を保護し、食物生態系の有限性を強調するものである。食物生態系はその下位に2学科すなわち食物生態保護学、食物生態修復学が属している。食物生態系は学科を交叉す 
 (2)食物直捕学:食物直捕学とは、様々な方法を用いて野生性食物を捕ることと、その法則を研究する知識体系である。人類が野生性食物に依存する生存パラダイムはすでに550万年以上の歴史をもち、この角度から見れば、人類の胃腸は野生性食物に、より適応している。食物直捕学は固有知識体系の整合である。
  (3)食物馴化学:食物馴化学とは、野生性食用動植物と微生物の繁殖方法との法則を人工的に制御する知識体系である。この食物採取パラダイムは約1万年の歴史があり、現在人類が食物を捕る主要形式であり、馴化食物は現代人類の主な食物である。食物馴化は食物栽培学、食物養殖学、食物植菌学3学科の3学科がある。食物馴化学は固有知識体系である。
  (4)人工食物学:人工食物学とは人工的方法で自然界にない可食物質およびその法則を研究する知識体系である。このパラダイムは200年の歴史があり、人工食物は人類の食物連鎖の外来者かつ後進者である。人工食物の主な方法は化学合成であるが、人工コントロールによる細胞繁殖制御方式はまだ普及していない。目下、人造食品学の下位には2学科がある。すなわち、調物合成食物学と調体合成食物学である。人工食物学は固有の知識総合体系を整合したものである。
 (5)食物加工学:食物加工学とは食物の利用価値を高めるための処理、及びその法則を研究する知識体系である。食物加工の目的は、適口性、健康性、便宜性などである。人々は一般的に物理や微生物の手段によって食物加工を行なったり、物理的方法により熱加工・無熱加工に分けることができる。食物加工学の下位には、食物粉砕学、食物調理学、食物発酵学の三学科が属している。食事加工学は固有の知識体系である。
 (6)食物流通学:食物流通学とは食物に時間的、空間的管理を施すことを研究する知識体系である。それには、貯蔵、運輸、包装方式により食物全体の管理効率を高めていくことが考えらえる。その下位には食物貯蔵学、食物運輸学、食物包装学という三学科が属している。食事流通学は学際的な知識体系である。
 (7)食物器具学:食事器具学とは器物を用いて、食事の人力効率を高めることと、その規律を研究する知識体系である。人類の食物直獲、生産、加工、貯蔵運輸などの活動で制作・使用され、食事の補助をする食具の研究までをも含む。その下位には、食事手動器具学、食事動力器具学という二つの学科が属している。食事器具学は学際的知識体系である。

3.食事秩序学
 食事秩序学とは、人類の食事行為の条理性、連続性及びその法則を研究する知識体系である。現在、人類の食事秩序はいまだに進化する余地が大きい。例えば、個体では食べることと健康間の秩序、グループでは社会食物資源や公衆独占の秩序、個体群では食事と生態系間の秩序である。食事秩序は食事行為によって構成されるものなので、どのように不適切な食事行為を是正するのか、どのように正確な食事行為を継承するのか、これらが食事秩序学構築の出発点である。人類の食事行為は食物母体系統、食物転化系統の客観的法則を遵守し、調和と継続とを守らなければならない。整った人類の食事秩序を構築するために、制限と教化という二つの面に力を注ぐ必要がある。なお、食事秩序学には、その下部祖岸に食事管理学、食事教化学、食事歴史学という三つの食学三級学科が属している。
(1)食事管理学:食事管理学は、強制的な手段による人類食事行為の是正を研究する知識体系であ
る。すなわち、強制的な手段を用いて、人々の不適切な食事行為を矯正し、避け、減らし、食事問題の発生を減らし、食事秩序を優化させる。食事管理学はその下位に食事経済学、食事法律学、食事行政学、食事数値制御学という四学科が属している。食事理学は学科横断の知識体系である。
(2)食事教化学:食事教化学は、柔軟性を備えた手段による人類食事行為の規範化を研究する知識体系である。いかに教育を通じて正確な食事行為を伝承するか、不適切な食事行為を矯正するのか。いかに優れた習俗が伝承されたか、いかに醜悪な習俗を排除するのか。食事教化学は学際的な知識体系であり、その下位には2つの学科が含まれる:食学教育学、食事習俗学である。食事教化学は学際的知識体系である。
(3)食事歴史学:過去における人類の食事行為及びその法則を研究する知識体系である。食事歴史学
  の役割は、祖先の摂食者健康、食物獲得、食事秩序という面で得られた経験を参考とし、現在の食事
  行為を是正することを指す。食事歴史学は学際的知識体系である:下位には直捕食史学と馴化食史学という二学科が含まれる(図3参照)。
図3食学基本体系
3 
三、食学科学体系を構築する意義について
   食学は新たな知識体系で、食事は各個人の健康や寿命と密接な関連があり、また人類社会の発展とも密接な関係がある。そのため、食学の確立は全体的な認知を備えた学術的価値でもあり、また食事問題解決のための実用的価値も備えている。さらに、各個体の健康のための指導的余地や、人類全体が前進を続けるための牽引的価値をも併せもっている。
   中国の国情からみると、食品安全問題は、食品科学だけに依存するだけでは不十分であり、系統的な食学知識体系が必要である。「健康中国」という戦略を実施するには、医学だけでは足りず、体系的な食学知識体系も必要である。「農村振興」という戦略の実施についても、農学だけでは十分ではなく、体系的な食学知識体系が必要である。「食を以て天と為す」では食の重要性を、「食政を政治の主とする」では食の優先性を、「食学による治理」では根本から食を管理することの重要性を強調している。人類の持続可能な発展を実現させるのに系統的な食学知識体系が必要とされるのである。
   具体的に述べれば、食学の価値は主に八つの面にみえる。第一:人類の食事に対する全体的な認知体系の構築、第二:人類の食事問題に対する全体的な解決策の提示、第三:食事と他の物事との関係整理、第四:人類の持続可能な発展のための支柱の提供、第五:人類の食事効率の大幅な向上、第六:各個人の寿命の延伸、第七:持続可能な産業の分類方法に関する提起、第八:「食業文明時代」理論の提起、である。 

(一)食学により構築する人類の食事に対する全体的な認知体系
 食学科学体系を確立する以前は、人類の食事に対する認知には大量化、割拠化、断片化という問題や、それらの問題がもたらした誤認や盲点が生じていた。これらの大量化、割拠化、断片化の認知は、寓話でいう「盲人、象をなでる」のようなものである。食学の「3-13-36」体系は、はじめて摂食者健康、食物獲得、食事秩序を一つの全体としてまとめた。食学は、現代科学体系における食事関連科目の認知の限界をから脱却し、より高度な視点から食事を観察し、人類の食事に対して全体化した認知と整理とを行なう。
   食学の「3-13-36」の全体的な認知体系の指導の下で、食学はわれわれに全ての食事問題を編みこんだ大きな網をもたらし、理論や実践の誤認点を明らかにし、かつては見ることのできなかった盲点をも埋め合わせ、多くの喜びや驚きをもたらしてくれるだろう。食学科学体系の確立によって、人類は「憶測」式の認知という限界に別れを告げ、その全体における価値が部分的な認知よりも勝るのである。食学自主知識体系の構築は、現代科学体系に対する補完なのである。

(二)食学により提出する人類の食事問題に対する総体的な解決策
 食学は理論一辺倒の学科ではなく、人々に密着した理論体系である。食学の誕生は、実践の需要を満たすため、また数百万年にわたって人類を悩ませ、徹底的な解決を得られなかった食事問題を解決するために誕生したと言える。食学は全体的な認知を、部分的な認知に代替し、認知体系全体をもって食事問題を解決する。それにより少ない労力で大きな成果を実現できるだろう。
  人類の食事問題は、部分的な問題と全体的な問題とに分けられる。長年にわたって、人々は食事問題を部分的に見ていたに過ぎないにもかかわらずそれを解決してきたが、それでは部分的にしか対応できず、食事の全体的問題については打つ手がなかった。その根本原因を探ると、「頭痛がすれば頭を、足が痛めば足を治療する」というような「その場しのぎ」の解決で、全体的なガバナンス体系が欠けていたことが分かる。全体的な認知がなければ全体的な視野をもつこともできず、全体的な視野がなければ全体的な考え方も持てず、全体的な考え方を持たなければ、全体に対応することはできないのである。その点で食学科学体系の創設は、食事問題の全体的な管理、全面的な管理、徹底的な管理、持続的な管理に、確実な理論基盤を提供することとなる。

(三)食事と他の物事との関係についての整理
  食学の重要な貢献の一つは、食事と他の物事との関係を整理すること:すなわち、他の物事ではなく、食事を優先させたことだ。他の物事を優先させるのであれば、人類の生存と持続可能性とが脅かされてしまう。
   文明は食事から生じる。食事には悠久の歴史があるが、文明は後から誕生したものである;食事は優先されるべきもので、他の物事は二の次である;食事は人類文明の六要素の源であり、これは継続的に存在する客観的な法則で、変えることはできない。工業文明が台頭して以来、テクノロジーの飛躍的な発展により人類の様々な欲求が満たされ、他の物事もそれに伴って増加した。商業社会の運営メカニズムの下で、人々は往々にして無意識のうちに「他の物事優先」という決定をし、食事を二の次としている。例えば、ファストフードの登場は、他の物事のために食事の時間を縮小するものであり、食物転化系統の需要が軽視されるため、身体の健康を脅かし、損なってしまっている。人類が今日直面している社会的衝突や人口爆発、環境破壊、不十分な寿命といった問題の根源には、「他の物事優先」があるのだ。このような「他の物事優先」という行為は、社会全体の運営効率を低下させるだけでなく、個体の健康や個体群の存続も脅かすものとなっている。食事と他の物事との関係において、食学は食事優先という明確な答えを提出しており、これが食学の大きな貢献となっている。

(四)食学が提供する人類の持続可能な発展の為の支柱提供
   2015年に国際連合が採択した2015-2030の17の持続可能な開発目標(SDGs)のうち、実に12目標が食事と密接に関連している。食学は、その領域と国際連合の持続可能な開発目標とが一致しているというだけではなく、管理方法という側面においても、国際連合が提起した「社会、経済、環境という三点の持続可能な開発問題における、総合的な手段による徹底的な管理」と図らずも合致している。食事問題は人類の持続発展のために重大な妨げとなる恐れがある。
   食学の基本理念の一つは、「食事問題が徹底的に解決されなければ、人類の持続可能な発展も実現しない」ということである。食学は、人類の個体群の持続可能性に注目すると共に、食母系統という人類の故郷の持続可能性にも注目している。食学は、テクノロジーがどれほど発展し、進歩したとしても、人類が地球という素晴らしい故郷を離れることは決してできないと考える。人類が食物系統とより調和を図る方法を真剣に研究することによって、長期的な安定をもたらすための鍵となるのだ。食学の、二つの持続可能性を維持するという理念は、人類がこれまで持っていた発展のための構想に調整を加え、自らの誤った行為を反省し、人類と生態環境の持続可能な発展を実現するのに寄与するのである。

(五)食学により惹起する食事効率の大幅な向上
 食事は人類の生存に関わる重要な行為で、7000年に及ぶ文明史は、食事効率の向上の歴史でもある。しかし、かつて食事効率は往々にして食物生産領域に限られていた。その点において食学は、食事効率が食物生産、食物利用、食事秩序、社会全体を反映することを明確に指摘した。食事効率は、人工効率、面積効率、成長効率、利用効率に分けられる。この四大効率のうち、利用効率がその中核で、食産効率は利用効率に働くものであり、食事効率の向上は、社会全体の効率の向上を促進する。生産効率領域の面積効率と成長効率には、いずれも「天上」があり、今日では限界に近づいている。人工効率は現代のテクノロジー、特にデジタル技術に導かれて、大幅な向上を遂げている。利用効率には今でも工場の余地が多く残されている。食事効率の全体的な向上は、人類文明の進展という重要なシンボルなのである。

(六)食学により惹起する各個人の寿命の延伸
 食学の三大役割の第一は、個体の寿命の延伸であり、これもまた人類社会文明の重要な指標となる。空腹を満たすことは食物の数量問題であり、良質なものを食べることは食物の品質や種類の問題であり、食から健康をもたらすことは食方法問題である。この目標を実現するために、人々は自らを養う方法を習得しなければならない。食べることは人々の生存を決定づけるだけでなく、食物から疾病を引き起こすこともできるし、疾病を治療することもできるのだ。
   人類の食事の歴史を概観すると、食方法は常に重要な位置に置かれてはきたものの、科学的で全面的な総活を行ない、食方法を専門的に研究する学科は存在しなかった。科学に関する人類の著作は非常に多いが、現時点で食方法について全面的に論述し、総活した学術著作は存在しない。食学はこの面での不足を補い、食学体系の中に一連の食関連学科を設置した。それには食物、人体、食方法、食審美、食病、食療に対する認知を含むと共に、「食脳と頭脳との主従関係」、「薬食一如」、及び「食前の三識」、「食中の七宜」、「食後の二験」という食事の三段階管理などの理論を提起し、さらに人類の食事に対する指導を行なう「文字盤食方法ガイド」も発表した。これらの学科、理論、食方法指導普及は、人々へ科学的な食方法を把握させ、人類の寿命を延伸させるために貢献している。

(七)食学により提起する「持続可能な産業の分類」理論
  現代の社会では数十種の産業分類があり、そのうち「三次産業分類法」が21世紀において広範に応用されている。この理論は現代社会の発展に大きな役割を果たした。しかし、この理論の最大の問題点は、人類の持続可能な発展を支えられないことである。
   食学は「持続可能な産業の分類」を提出した。つまり、人類の生存に関する需要という角度から、社会の産業を、生存必須産業・非生存必須産業・生存脅威類産業の三点に分類する。生存必須産業とは、食物・服飾・住居(不動産)・医療等の人類の生存に必須な産業を指す。非生存必須産業とは、交通・情報・サービス・娯楽などの、生活には必要でも、生存には必須ではない産業を指す。また、生存脅威類産業とは、麻薬や軍事などの産業、及びテクノロジーの制御不能によって形成された幾つかの産業を指し、それらは人類の生存に大きな潜在的危険を及ぼす。食学は、生存必須産業を全力で発展させ、非生存必須産業を効果的に制御し、生存脅威類産業を徐々に排除するよう訴える。
  「持続可能な産業の分類」という理論の核心的価値とは、人類の持続可能な発展を実現するための有効な道筋を提供する。

(八)食学により提出する「食業文明時代」理論
  人類の発展史は、原始文明・農業文明そして工業文明という三大段階を経てきた。人類の発展と文明は今でも継続しているが、人類の次の文明とはどのような形式の文明となるのだろうか。食学は、人類の次の文明段階とは食事文明時代である、との答えを提出する。食事文明とは食業文明とも言うことができ、食業文明とは、食事文明が歴史において時代を代表した別称となる。人類の文明が始まってから、食事問題は常に存在しているが、それが徹底的に解決されることはなかった。食業文明時代とは、全人類の食事問題が全面的かつ徹底的に解決される社会段階のことである。食業文明は、人類の全体的文明、持続可能な発展文明、である;また、寿命が充分に延伸された長寿文明、人類が大量の時間を有することのできる有閑文明;人類が為すことも為さざることも抑制した文明、人類が地球で安心して暮らすことのできる、地球文明を実現するのである。
   人類は未来の理想的な社会への大きな憧れを有してきており、それはアジアの「大同思想」という理想的な社会から、ヨーロッパの「ユートピア(理想郷)」、近代の「空想社会主義(ユートピアン=ソーシャリズム)」に至るまで、古今世界中の聡明な人々による様々な構想となって存在してきたが、いずれも有効な実現方法は提起できなかった。食学は、人類の理想的な社会実現のために、明確かつ実行可能な道を描いたが、これこそが全人類の食事問題を優先的かつ徹底的に解決し、食事文明段階に進んでいく、人類にとって理想的な社会を実現するための前提なのである。

四、おわりに
   全体的な視野で食事問題を見据え、食事問題の視野から人類社会の発展をみると、食事問題は相変わらず各個人の生存・健康・長寿という面での矛盾があり、依然として人類の生存・発展・持続可能という問題となっていることが理解できる。人類の歴史を振り返ってみると、食事問題はずっと人類とともに存在し、簡単には離れない。昔からの問題がきちんと解決されず、新たな問題がまた現われた。現在、世界ではまだ約8億人が飢餓状態に陥っており、約20億人が食からの慢性病をもたらされており、数十億人が食品安全の脅威に直面している。食料資源を奪い合う衝突が絶えず、人類の食事が生態への妨害になる事態が日増しに激化している。これから分かるとおり、今日の所謂「社会文明」や「工業文明」などの概念は総体的なものに過ぎず、それは人類全体の文明ではないのだ。飢餓などの食事問題の徹底的な解決こそが、人類全体の文明における基本程な具現なのである。
   国際連合が成立して77年以来、食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)の三機構が、世界の食事問題に対応するために順次設置されたことからも、現代社会における食事問題の重要性を垣間見ることが出来る。この三機関は77年間にわたって多くの成果を挙げ、多くの問題を解決してきた。それにもかかわらず、全体的にみると、これらの機構があくまで「緊急消防援助隊」のような役割にとどまっており、30年、50年、また80年の努力を通じ、人類の食事問題を全面的に解決するための法案を出してきていない。この原因は何かというと、これは、人類が現在直面している最も複雑で根本的な食事問題を解決するための適切な理論ツールがないためであり、既存の知識体系だけでは力不足なのである。
   数百年来、全世界の科学者の客観世界に対する探究は、あらゆる分野に及んでおり、認知の深さと広さには感銘を受けている。その中には、部分的認知が全体的認知に取って代わる例が枚挙に暇がない。これも人類の客観世界を認知するための不可欠な過程である。しかし、唯一食事に関しては、全体的認知のない状態がいまだに続いている。おそらく、食に関する事柄が普通すぎるからだろうし、満腹になれば万事うまくいくからなのだろう。上述の原因のためか、現代科学体系にはこの空白が残されており、食体系を以て食事認知全体の空白を埋めている。
   食学を構築したのは中国人の視野であり、中国人の価値観で人類の食事問題を認識・分析したのである。また、東西融合の形でつくった、全人類の食事問題を解決するための自主的知識体系でもある。現在のところ、国際社会にはこのような知識体系はまだ存在していない。現代科学体系は無から有、小から大、弱から強へと今日まで発展し、人類に多大な貢献を果たした。しかし、それは依然として発展途上にあり、依然として不足や欠点が存在している。現代の科学体系は、絶え間なく補充・完善される中において発展してきたのであり、食学の構築方式は、科学体系の総合であり、総合の中に科学交叉や科学文化も存在する。
   現在、現代科学体系の結構は依然として高度に分化している状態のもとにあり、食学の構築方式は科学体系の総合でもあり、総合の中の科学交叉や科学文化でもある。食学構造の基礎的なロジックは「全体的認知を以て部分的認知に代える」ことである。食学構築の基本点とは人間本位であり、物質本位ではない。食学構築の出発点は問題志向であり、課題志向ではない。食学と既存の学科・科学体系との接続もしくは衝突については、より深く研究する必要がある。食学の構築は次の社会構造の転換を牽引し、人類の持続可能な発展を維持するのである。

参考文献

 連合国、変革我們的世界(国連は、私たちの世界を変える:持続的な開発のためのアジェンダ):2030年
可持続発展議程(2015年)[2022年]
https://documents-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N15/ 291/88/Pdf?OpenElement
  朝倉敏夫、《日本的食研究与高等教育》、楚雄師範学院学報、2019、07、(34巻第4期:pp.2-5)
  倪健民、『解決人類食事問題的全球公共産品』、人民政協報、2020.10.16(10)
  李衍華、『邏輯、語法、修辞』[M]北京、北京大学出版社、2011、pp.26-34
  劉廣偉、「食学改変世界(食品学は世界を変える[N])」、中国食品報道、2014.7.8(06)
  連合国糧農組織、穀物供給ブリーフティング[EB/OL](2022.11.4)、2022年11月19日、https://www.fao.org/worldfoodsituation/csdb/zh
  アントニオ・グテーレス、『80億の人間、人類が一つ』[N]、中国日報、2022.11.15(02)
  白庚勝、中国の食文明を後押しする『食学』、人民日報海外版、2020.8.20(07)

 

※本論文は『山西農業大学紀要・社会科学版』2023年第1号より訳出(池間里代子・呉川訳)

 

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食学序説
 食事問題に関する客観的法則の提示 
劉 廣偉
要旨
中国には「民は食を以て天と為す」(人の命には食べ物が欠かせない)という諺があるが、なぜ「民は農を以て天と為す」とは言わないのか。その理由を探ると、農事は食物を中心とするのに対して、食事は摂食者を中心とするからである。農学は食物生産から確立された知識体系であるが、食学は食べる人の需要から確立された知識体系だからである。農学は約1万年前から続いた食物順化を対象とする学問であるが、食学は約550万年もの進化史をもつ人類個体の生存と持続、集団の調和と共存、個体群の持続可能な発展を研究対象とする学問である。農学は食事に対する部分的認知であり、食学は食事に対する全面的認知である。食学は人類におけるあらゆる食事問題を網羅したより大きな知識体系であり、人類の食事問題を解決するための世界的な公共的所産である。
現代社会において、食物生産に関する認識と食物利用に関する認識は分離している。これによってもたらされた社会問題は、益々深刻になり、益々学界の注目を集めている。
食学は食事学の略称である。本論は、食学という自主的知識体系の基本内容を解説し、食学科学体系の定義、役割、構造から始め、「3-13-36」という食学基本科学体系を解説したうえで、食学科学体系の構築がもつ重要な意義を述べるものである。
キーワード:食物 摂食者 食事 食学 食事問題 知識システム

一、食事問題の総体性について

 食事問題の総体性とは、問題の各部分間における関連性を指す。食事問題は人類の生存、発展及び持続における矛盾の最たるものであり、食事問題は文明の進歩に伴って減少するのではなく、むしろこれまで以上に更に複雑化しつつある。多くの食事問題は、現代における文化や科学技術環境の中で新たに発生したことなので、既存の関連分野によって、全面的かつ完全に解決することはできない。中国の諺に「民は食を以て天と為す」とあるが、なぜ「民は農を以て天と為す」とは言わないのか。なぜならば、農事は食物を重心に置くのに対して、食事は摂食者を重心とするからである。農事は食料生産の視点から確立された概念であるが、食事は摂食者の需要から確立された概念である。農事は1万年から続いた食物の馴化を主要な内容とするが、食事は人類の生存と健康を主体とした約550万年に及ぶ進化史であることが理解できる。人類には「食」に関わる問題がどれくらいあるのか。それは、「農」の角度だけでは数えきれず、「食物」の角度だけでも数え切れず、「食事」の角度からしかすべての問題が明らかにできない、と考えられる。食事問題は27億トンの食糧だけでなく、80億人の健康長寿、世界平和、さらに人類の持続可能な発展まですべて関連している。

(一)食事と食事問題概念の確立
  現実として、食物獲得問題と摂食者健康問題とは相互に関連する一体のものであり、分割ができない。例えば、食物の供給量に問題があれば人々は飢餓状態に陥るし、食物の品質に問題があれば腹を壊してしまう。食物獲得は摂食者の生存と健康のためであり、摂食者の生存と健康を維持するために食物を獲得するので、二者は一体なのである。喩えて言えば、食物生産問題と食物利用問題は同じ「大鍋」に共存しており、この「大鍋」の中には食料供給問題のみならず、摂食者の需要問題や秩序問題もあるのだ。それは総体的、大体系であり、この「大鍋」には550万年以上の歴史がある。それは客観的存在であったのだが、われわれはずっとそれを発見するに至らなかった。そのため、この「大鍋」をどう表現すればよいのかという概念がなく、名前もないまま今に至ったのである。では、この「大鍋」は何という名で呼ぶべきだろうか。
  大義名分がなければ筋が通らない、この「大鍋」に名を付けることは、それを認識する第一歩である。食物、食品、摂食、農事、農業、栄養、養生などの言葉で命名するのは適当ではない。これらの概念はすべて狭く、小さいし、それらの外延はすべてこの「大鍋」を全面的に反映するに至らず、この対象物を正確に表現することができない。我々には新概念が必要なのだ。そのため、筆者は古代中国語から「食事」という言葉を借用し、この「大鍋」に名付けた。一方、英語にも「食事」に対応する言葉がないので、「食」という中国語のピンイン表記「shi」と英語の接尾語「-ance」を組み合わせて「shiance」という言葉を新たに創り、「食事」の英語訳語とする。食事(Shiance)という概念の確立によって、我々は人類と「食」とが関係するすべての活動や現象を全面的に表現することが可能となり、人間がそれを知り、分析し、研究することができるようになった。食事(Shiance)概念の確立は、人類が客観的世界観を認識する新しい重要な一里塚である。
  食事問題(shiance issues)は、人間が食物を獲得し利用する過程において遭遇する、あらゆる矛盾と困難である。食事問題は人類の生存性、本質性、持続性に関わる問題である。国際連合が採択した2015-2030持続可能な開発目標(SDGs)17のうち、実に12目標が食事と密接に関連している。現在人類が直面している環境、人口、資源、貧困、平和等五大問題の中で、人口と貧困問題における主要な内容が食事問題なのである。人類文明における三大パラダイムである農耕文明、遊牧文明、漁猟文明はいずれも食事名である。文明の源は食事問題への対応であり、食事問題は文明持続を下支えしているのだ。食事問題は、文明との関係において過小評価されている。
  食事問題は膨大な体系である。大きな食糧問題とは即ち食物問題であり、大きな食物問題とは即ち食事問題である。ゆえにここから導かれるものは、「食物問題>食糧問題」、「食物問題>食品問題」、「食事問題>食物問題」である。即ち「食事問題=食の問題+食物問題+食者問題」なのである。
  民は食を以て天と為す、この「天」の大きさは一体どれくらいだろうか?世界からみると、「食事問題」は27億トンの食糧のみならず、80億人の生存と健康にもつながっている。健康管理において、食事問題は主として病をもたらす面と病を治す2方面がみられる。健康管理戦略は「予防第一」である。食病、食事療法などの食事管理は健康管理の上流にあり、「予防第一」という戦略の重要な「手掛かり」である。つまり、健康管理は病前管理と病後管理の二つの段階に分けられ、医学は病後管理に関わる知識体系であり、食学は病前管理に関わる知識体系なのである。さらに、病後管理の段階においても、食養食療が欠かせない。合理的な飲食は生存と健康の基礎であり、空腹を満たすことは食物の数量問題であり、良質な食事をすることは食物の品質や種類の問題であり、食から健康をもたらすことは食方法の問題である。食学は人間が生まれてから死に至るまで、その一生に関与するものである。医学は人生の一部、すなわち病を得た時のみに関わるものである。食事は病状変化や栄養補給という作用のほかに、疾病発症と治療後及び健康との関係においてしばしば軽視される。健康管理は医療に留まらず、またただ医療に頼るだけでは不十分であり、系統的な食学知識体系が必要となる。
  常識から我々が学ぶことは、高所に立つことで多くの問題が見つけられるということだ。全角度に立ってこそ局部的問題を発見することができ、食事の立場に立ってこそ農事問題が見えてくるものだし、食業の角度に立てば農業問題が発見できるのである。「食糧問題」から「食物問題」、さらに「食事問題」へ、これが部分認識から全体認識へと至る昇華である。

(二)食事認知の分散性
 上述した分析から分かるように、食事は一つの総体であり、食事問題も一つの総体である。しかし、人類は食事・食事問題の認知に対して、まだ全体的な知識体系を形成していない。我々が人間の食事認知を観察する場合、時間と空間との二つの角度から分析することができる。時間の角度から見ると、食事に対する認知は一度として途切れたことがない。その際立った特徴が最大化され、食事の認知が人類文明の前進を推し進める重要な力となっている。空間の角度から見ると、どの国や地域の人でも、生きていくために食事認知から離れられない。その突出した特徴が細分化され、食事に対する認知は、それぞれの国・文化を構成する重要な内容の一つとなった。
 産業社会が始まって以来、人々は食事認知の内容に対して分類を行ない、農学、食品科学、栄養学などの知識体系を現代科学体系のなかで順次確立し、その領域内における食事認知を大いに推し進め、より多くの食事に関する客観的法則を明らかにし、人類の食事問題、特に近代社会における人口爆発による、食品需要の大幅な増加問題を解決するために大きな貢献をした。
  しかし、このように分類された食事知識体系にも、いくつかの問題が生じている。一つは、主に食物生産側に集中し、食物利用については比較的脆弱であること。第二に、農学、食品科学、栄養学がそれぞれ異なる上位科学に属しているため、相互間の空白が多すぎること、である。つまり、現代の科学体系の中では食事認知はまだ分散化していて、人類の食事問題全体をカバーしていない状態である。現代社会では、食物生産と食物利用の認知分離がもたらす社会問題は、ますます深刻化し、それがさらに広く注目を引いている。
  日本の教育界では、食事に対する全体的認知をすることが、すでに多くの大学で注目され始めている。例えば、宮城大学は農業経済学科、食品経済学科、環境システム学科という三つの学科で構成された「食品産業学部」を設置した。東洋大学は「食」「栄養」「健康」に関する学科を連系させ「食環境科学部」を設置した。東京農業大学は、21世紀における人類と地球とが直面している問題から、「食料」「環境」「健康」「資源」などの課題をつなげて観察する「食と農」の博物館を設立した。龍谷大学は、人の命を育むために不可欠な「食」と「農」の2つの要素から出発し、「生産」「栽培」「収穫」「加工」から「流通」まで一連の要素を連結して、「食の循環」プロセスを発表した。立命館大学は「食学科」を指す「食マネンジメント学部」(College of Gastronomic Arts and Sciences)を創設し、総合的な知識体系を構築した。すなわち、1.フードマネージメント分野。「食」に関わる組織や企業の経営法、政策などを学ぶ。2.フードカルチャー分野。文化、地理、歴史的な視点から世界各国の食文化を学ぶ。3.フードテクノロジー分野。食材そのもの、体内摂取機能、安全で美味しく食事する方法・手段などを学ぶ。 上述した六大学の学部、学科、さらにカリキュラム設置の変化を見ると、いずれも客観的なニーズに基づき、従来の「食」の学科分野を拡大しており、縮小する学校はみられない。このように「食」領域に対してその範囲を拡大するような実践は、食事問題の総体的な認知に対する積極的なアプローチである。

二、食事認知全体の知識体系構築について
  いかに人類の食事について、全面的かつ正確に認識できるだろうか?いかに人類文明の進化における食事の価値がどれほど重要であるか、正確に認識できるだろうか?人類の食事に対する共通認識の大きな力をより良く発揮できるだろうか?人類が直面している数多の食事に関する課題を、いかにより適切に解決していくことができるだろうか?従来の伝統的な認識体系に頼るだけでは不十分なのである。客観的に食事全体へ対応するためには、食事認知の総体的な知識体系を確立する必要がある。前述したように、「食事」という対象を「大鍋」に喩えた。では、我々は食事認知の知識体系を「大鍋の蓋」に喩え、「大鍋の蓋」でもって「大鍋」にかぶせることとする、この「大鍋の蓋」は、何と名付けようか?もちろん「食事」を認知する知識体系であるので、「食事学」と命名し、略称を「食学」としよう。
  食学は、食事を研究対象とし、人類の食事問題に対する全体的な研究を展開するとともに、これにより知識体系を構築するものである。食学は、食事問題に対応することを目的として、食事問題の法則形成を明らかにした、新たな性質の内容をもつ総全体的知識体系である。食学科学体系の構築には莫大な価値があり、それは人類の現在と将来の食事問題を解決するための「金の匙」であり、人類の食事問題を解決する地球規模の公共財産なのである。
  科学とは、「自然、社会、思考などの客観的法則を明らかにする知識体系」であると『現代中国語辞典』にある。簡潔に言えば、科学は客観的な法則を提示する知識体系である。名詞としての科学は知識体系であり、客観的な法則分科を提示する知識体系である。ここには三つの条件がある。
  1.客観的法則の提示
2.科目を分かつ
3.知識体系の形成
  本論では、Scienceの語源の意味で、現代の「科学(Science)」という概念の内在的要素と外延を規定することには、同意しかねる。時間、空間及び研究パラダイムなどの要素を今日にもってきてみると、全てが科学(Science)という概念を定義するには非必要条件だからである。これらの非必要条件と必要素と外延とを正確に規範化することは、人間が客観世界をよりよく認識すること条件とすることは、客観的な法則の発見を妨げる恐れがある。科学(Science)という概念の内在的な要に役立つのだ。

(一)食学の定義
 食学科学の創設において、最初に直面する問題は食学の定義である。正確な定義概念がなければ煉瓦同然であり、何の役にも立たない。食学の定義を正確に確立するために、論理学に依拠して、関係、機能、本質、発生の四次元から分析することにより、この知識体系の内在的要素と外延とをより正確に定めることができる。 
  本質という角度から定義すれば、食学は人類の食事に対する客観的な法則を明らかにする知識体系である。食学は人類の食事に対する認知に基づく一連の概念や判断によって構成される、非常に綿密なロジックをもち合わせた知識体系である。また、食学は生存という視座から出発し、食事内容を研究して食事法則を発見する知識体系である。
  機能という角度から定義すれば、食学は人類の食事問題解決を研究する知識体系である。問題解決の前提とは問題を認識することであり、問題を認識する目的は問題を解決することである。食学は食事問題を認識する過程において、食事問題の解決を目的とする知識体系である。そして、人類の食事問題を解決することが、食学存在の唯一の理由なのである。
  関係という角度から定義すれば、食学は人類食事行為の発生、発展、及びその法則を研究する知識体系である。 食学は人類の食事行為と食事問題との間の因果関係を研究する知識体系である。食学は人類が伝承してきた正確な食事行為・不当な食事行為の矯正・持続可能な発展を維持していく知識体系なのである。
  発生という角度から定義すれば、食学は人類食事行為の発生・発展及びその法則を重んじる知識体系である。
  食学定義の確定は、科学の本質属性と科学的性質を明確にし、また科学的研究方向・内容・任務をも明確にした。
  「食学」の英語訳について、既存の英語に対応できるものがないため、2013年に「Eatlogy」という英単語を創出した。これは、英単語の「eat」と「-ology」とを組み合わせて、中国語の食学の翻訳として用いることとし、すでに何度も公式使用されている。その後、食学の研究が進むにつれて、食学の下部学科である「摂食学」が誕生した。そこで「食学」と「摂食学」の翻訳問題を解決するために、2021年8月に出版された『食事問題概論』で、新たに「Shiology」という新語を初登場させたが、これは中国語の「食」のピンイン「shi」と、英語の「-ology」とを組み合わせたもので、「食学」の英訳として用い、元の「Eatlogy」は「摂食学」の英訳として用いることとした。
  農学とは、「作物の栽培、育種、土壌、気象、肥料、農業害虫などを包括する農業生産を研究する学科」とある(『現代漢語辞典』第7版)。農学とは農業科学の略称で、農業を研究対象としている。農学は動植物の繁殖を研究する人工制御であり、動植物の馴化を研究する知識体系である。農学は食事の部分的認知であり、食学は食事の総体的認知である。農業は各国国民経済において表述が異なり、内容や範囲も異なるため、農業の定義における内在的要素と外延との異なりを惹起するのだ。

(二)食学の役割 
  食学の科学的問題は「どのように食事と文明との関係を構築するのか」ということである。その問題には、3方面が含まれている:食事と個体との関係、食事とグループとの関係、及び食事と個体群との関係という3点の面が含まれる。食学の基本的な役割とはすなわち、個体寿命の延伸、社会秩序進化の促進、個体群の存続維持、である。
  食学の第一の基本的任務とは、人類個体寿命の延伸である。即ち、一人ひとりの食事健康寿命を延長することである。ゆえに、「食学は大衆のための学問であり、国民のための学問である」といえるのだ。食べることと個体の健康との関係には、三点すなわち、食物量・食物品質・食方法の側面である。まず、食物その供給量を保障する必要がある。国際連合食糧農業機関(FAO)の統計によると、2022年の世界穀物総生産量は27.64億トンになると予想され、世界人口を80億と計算すると、穀物量は一人当たり345.5kgにも達する。しかし、貧富の差や食物ロス、食物の他の用途転化、不均衡、不十分といった問題が非常に深刻であり、8.21億人もの人々が今なお飢餓状態に置かれている;次に、食物品質の安全性に対する保障が求められる。現代の食物生産における食物品質の脅威は、一つは汚染、次に化学物質の過剰使用である。食物は、その生産、加工、運輸等の過程の各部分において、この二つの安全が脅かされている;三番目は、正確な食方法の選択である。食から健康をもたらすのに、ただ食物の量や質の保障をするのみでは不足であり、さらに正確な食方法も必要である。空腹を満たすことは食事の量的問題であって、良質なものを食べることは食物の品質や種類の問題である、なぜならば、健康的に食べることは、食べ方の問題である、というのは食べ方で病に至ることもあれば、疾病を治すこともできる。あなた自身が満足するのと、皆とは、異なる胃腸や身体の必要性に応じているのであり、食前・食中・食後の三段階において全体を管理し、各個体の身体的差異を尊重することが、食方法の核心的内容となる。食学は、人類を指導して哺乳動物として持つべき寿命まで生きさせるだけでなく、哺乳動物の中で最長寿命まで生きさせるように、食方法を指導するのである。
  食学の第二の基本任務とは、社会秩序の進化である。食事秩序は、人類の食事の条理性と連続性であり、人類社会全体の秩序の基礎でもある。調和のとれた公正な世界の食事秩序を構築することは、人類社会調和の基礎である。食物資源の分配は人類社会秩序の起源であり、食物不足、不均等な食物資源独占は、人類社会で衝突が起きる主な要因である。中国の歴史から見ると、歴代の農民蜂起はみな食事によって起こされたものだ。人類の科学と経済、加えて交通と貿易の発展に伴い、世界の食事秩序形成も加速している。いかにこのシステムを積極的に研究、制御するのか、いくつかのビジネスグループの取締役会が世界食秩序の限界から抜け出し、80億人の利益となる世界食事秩序を打ち立て、食物生産と分配をより均等化し、それによって食物資源を原因とする衝突を減らすこと、どの人にも空腹を満たし、より良く食べ、食から健康寿命を延ばすこと、この調和のとれた食事秩序により、人類社会全体に秩序という進歩をもたらすのである。
  食学第三の基本任務とは、個体群存続の維持である。550万年以来、約1076億人が地球上で暮らしてきた。2022年11月に世界総人口が80億人を突破したが、世界総人口が100億クラスに入ると、歴史上どの時期とも比べられず、食料需要量が歴史上未曾有の高さになる見通しである。食糧需要の大幅な増加に従って、食物母体生産能力が臨界点に達する恐れがある。それによって、食物資源の希少性が更に明らかとなり、人類の食事と生態系間との衝突が日増しに激化している。食物資源と人類の食料需要間との均衡が崩れると、人類の文化と文明は、巨大な脅威に晒されるようになる。これは、人類の持続可能な発展を脅かす重要な要素である。人類の持続可能な発展を脅かすのは、炭鉱、電力、石油、天然ガスなどの資源ではない。これらの資源はすべて生活資源であり、生存資源ではない。国際連合が発表した持続可能な開発目標(SDGs)の17目標のうち、実に12目標が食事と関連している。食事問題に有効的な解決がなされなければ、持続可能な発展も実現不可能なのだ、と言える。

(三)食学の構造
  知識体系を構築するには、ミリマリズムの原則に従う必要がある。筆者はこれまで食生産、食生活、食思想、食文化など多くの角度から試みたが、「極めてシンプルに全体をカバーする」ことには至らなかった。最終的には摂食者健康、食物獲得、食事秩序の三要素を選択し、食学の基本構造を構築した。この構造はすべての食事問題をカバーすることができ、食事認知体系という大きな網を統べることができる。この三者間の関係と機能とを正確に表現するため、また記憶しやすくするため、本論では摂食者健康、食物獲得、食事秩序を三角形に構成し、「食学三角」と命名した(図1を参照)。
1 図中の「摂食者健康」(食者健康)は人間の角度から出発し、人間の需要から出発し、また人間の食事による健康から確定したものである。食物が口に入ってから、吸収、利用、排泄されるまでの過程は、人体内部の10メートルに満たない距離で、とても短いものの、その内在的要素は非常に豊富であり、身体構成、エネルギー放出、情報伝達、排泄物の排出などを包含している。それは無限の謎に包まれていて、生存、健康、長寿という三つの面を含んでおり、食物利用の効率を示している。
  図中の「食物獲得」とは食物の角度から、食物を摂取することをいう。これは、食物の源から食卓まで続く非常に長いラインであり、食物の直捕、馴化、加工、流通などの領域を含む。これは非常に巨大な産業であり、本論では「食業」と称す。食物獲得は人類の食物の質と量とを保障するための領域であり、食物生産の効率をあらわす領域でもある。
  図中の「食事秩序」とは、人間の食事行為の角度から、人類の内部と外部との関係という角度からのものである。食事行為を規範化することを通じて三大矛盾を調節するものである。第一に;食物獲得と食者健康との間にある矛盾と衝突とを調整すること;第二に;グループ間における矛盾と衝突とを調整すること、第三に;人類の食事と生態系との衝突と矛盾とを調整すること、である。食事秩序を規範することは、経済、法律、行政、教育、習俗等の多方面に関わるものであり、その核心は正しい食事行為を伝承し、不適切な食事行為を矯正することである。
  上図から、摂食者健康とは中核的なもので、食物獲得と食事秩序は、いずれも摂食者健康のために働くものであるということが読み取れる。すなわち、食物獲得と摂食者健康との関係は、手段と目的の関係であり、すなわち食物獲得とは摂食者の健康のためであるということである。その根本には食物供給の質と量が存在している。これより以前には、摂食者健康、食物獲得、食事秩序の三者間の認識は分裂・分散的であり、それぞれに言い分があり、独自に歩んできていて、自らの理論体系内においては、各々が絶対に正確であると主張してきた。が、この三者が一体となった後は、「盲人、象をなでる」のような矛盾、これまで体験してきた認知のズレと空白があることに気付かれるだろう。と同時に「別世界を発見した」かのような驚きもあり、以前からの多くの問題や難問が「なんだそうだったのか」という発見もあるのだ。

(四)食学科学の基本体系
 食事という対象を全面的に認知するには、食事を全面的にカバーする知識体系を構築する必要がある。これは、膨大な知識体系である。食学学科の基本体系構成は「3―13―36」であり、これは食学、食学二級学科、食学三級学科と食学四級学科から構築された四階層の体系である。その中の「3」とは、三つの二級学科、即ち食学三角を支える摂食者健康学、食物獲得学、食事秩序学を指す。「13」とは食物生態学など13の三級学科を指す。「36」とは、食物栽培学など36の四級学科を指す。これは食学基本体系の第一版であるが、今後とも研究を進めるにつれて更新が期待される。
2図2.「食学三級学科体系」

 

 

 

 

 食学の二級学科は、摂食者健康学、食物獲得学、食事秩序学という食学三角系の三つの視点から構成されている。また、食学の三級学科は13の食事パラダイムによって構成されるる知識体系である。(図2を参照)

1.摂食者健康学
  摂食者健康学とは、人体の生存と食物・食方法の間に存在する関係及びその法則を研究する知識体系である。摂食者の健康学とは人間本位の知識体系であり、植物利用に関する各分野のあらゆる認知を網羅している。食物利用は、人類の食事の核心である。一般的に、あらゆる形式の食物獲得の最終的な目的はすべて食物利用であり、食物利用効率は摂食者の健康長寿を体現している。摂食者健康学の本質は、食物だけではなく食べ方・摂食障害・食餌療法などの方面から、各個人の健康長寿について研究されている。摂食者健康学には「二重認知食物」「二重認知身体」「食は医学の前」「飲食三段階」「食事の五覚審美」「六種の食病」「三種の食療」などの観点があり、この学科には豊富な内容が揃えられている。摂食者健康学は、摂食者健康学・食物成分学・摂食学の3部門三級学科を管轄下に置いている。

 (1)摂食者需要学:人の身体構造、属性と食物との関係や、法則を研究する知識体系である。人間は個体ごとに異なるものであり、摂食方法の需要もまた異なる。摂食者需要学とは需要グループ共通性という基礎のもと、個体需要の差異性を研究するものである。摂食者需要学は以下2部門が管轄する:食者体性学、食者体構学。なお、摂食者需要学は東方・西方ともに認知融合がなされている知識体系である。
 (2)食物成分学:食物に内在するすべての特徴及びその法則を研究する知識体系である。食物に含まれる各種の人体に働く成分について、より多くの角度からそれらを認識すべきであり、ただ視覚的認知の結果だけに限るべきではない。食物成分学には次の二つの学科が属している:食物元性学、食物元素学。食物成分学は東方と西方の認知が融合された知識体系である。
 (3)摂食学:摂食学は、食物転化学とも呼ばれており、食べることと個体の健康や長寿との関係及び法則を研究する知識体系である。また、食べ物、食方法及び身体の健康や長寿との関係や、その法則を研究する知識体系でもある。如何に食事から健康や長寿をもたらし、如何に自己を養うのかを研究する。食べることは身体機能を維持し、飢えを満たし、疾病を治療する役割を果たす一方、疾病を起こす可能性もある。摂食学は下位に5学科がある:摂食方法学、摂食美学、摂食病学、偏性物食療学、合成物食療学。摂食学は新たに構築された知識体系である。

2.食物獲得学:食物取得と関連する認知を全て網羅する知識体系である。食物獲得は歴史の長い行為であり、人類の生存と発展と共に進んできた。仮に、原始人類の天然食物の採集、狩猟、補撈、から数えてみると、すでに数百万年の歴史をもつ。しかし、食物獲得学の確立は現在になってからのことである。食物獲得学は550万年の歴史空間に着目し、人類の食物獲得行為の客観的法則を研究するものである。食物獲得学は農業と異なり、より高度な視点と広い視野を持つ。食物獲得学には、食物生態学、食物直捕学、食物馴化学、人造食物学、食物加工学、食物流通学、食事器具学の七門三級学科が属している。
 (1)食物生態学:人類と食料源との関係や法則を研究する知識体系である。食料源の角度から人類の食物が地球生態系に依存する関係であることを研究し、人類の食事が生態系を妨害していることを研究し、食物生態系の持続性を保護し、食物生態系の有限性を強調するものである。食物生態系はその下位に2学科すなわち食物生態保護学、食物生態修復学が属している。食物生態系は学科を交叉す 
 (2)食物直捕学:食物直捕学とは、様々な方法を用いて野生性食物を捕ることと、その法則を研究する知識体系である。人類が野生性食物に依存する生存パラダイムはすでに550万年以上の歴史をもち、この角度から見れば、人類の胃腸は野生性食物に、より適応している。食物直捕学は固有知識体系の整合である。
  (3)食物馴化学:食物馴化学とは、野生性食用動植物と微生物の繁殖方法との法則を人工的に制御する知識体系である。この食物採取パラダイムは約1万年の歴史があり、現在人類が食物を捕る主要形式であり、馴化食物は現代人類の主な食物である。食物馴化は食物栽培学、食物養殖学、食物植菌学3学科の3学科がある。食物馴化学は固有知識体系である。
  (4)人工食物学:人工食物学とは人工的方法で自然界にない可食物質およびその法則を研究する知識体系である。このパラダイムは200年の歴史があり、人工食物は人類の食物連鎖の外来者かつ後進者である。人工食物の主な方法は化学合成であるが、人工コントロールによる細胞繁殖制御方式はまだ普及していない。目下、人造食品学の下位には2学科がある。すなわち、調物合成食物学と調体合成食物学である。人工食物学は固有の知識総合体系を整合したものである。
 (5)食物加工学:食物加工学とは食物の利用価値を高めるための処理、及びその法則を研究する知識体系である。食物加工の目的は、適口性、健康性、便宜性などである。人々は一般的に物理や微生物の手段によって食物加工を行なったり、物理的方法により熱加工・無熱加工に分けることができる。食物加工学の下位には、食物粉砕学、食物調理学、食物発酵学の三学科が属している。食事加工学は固有の知識体系である。
 (6)食物流通学:食物流通学とは食物に時間的、空間的管理を施すことを研究する知識体系である。それには、貯蔵、運輸、包装方式により食物全体の管理効率を高めていくことが考えらえる。その下位には食物貯蔵学、食物運輸学、食物包装学という三学科が属している。食事流通学は学際的な知識体系である。
 (7)食物器具学:食事器具学とは器物を用いて、食事の人力効率を高めることと、その規律を研究する知識体系である。人類の食物直獲、生産、加工、貯蔵運輸などの活動で制作・使用され、食事の補助をする食具の研究までをも含む。その下位には、食事手動器具学、食事動力器具学という二つの学科が属している。食事器具学は学際的知識体系である。

3.食事秩序学
 食事秩序学とは、人類の食事行為の条理性、連続性及びその法則を研究する知識体系である。現在、人類の食事秩序はいまだに進化する余地が大きい。例えば、個体では食べることと健康間の秩序、グループでは社会食物資源や公衆独占の秩序、個体群では食事と生態系間の秩序である。食事秩序は食事行為によって構成されるものなので、どのように不適切な食事行為を是正するのか、どのように正確な食事行為を継承するのか、これらが食事秩序学構築の出発点である。人類の食事行為は食物母体系統、食物転化系統の客観的法則を遵守し、調和と継続とを守らなければならない。整った人類の食事秩序を構築するために、制限と教化という二つの面に力を注ぐ必要がある。なお、食事秩序学には、その下部祖岸に食事管理学、食事教化学、食事歴史学という三つの食学三級学科が属している。
(1)食事管理学:食事管理学は、強制的な手段による人類食事行為の是正を研究する知識体系であ
る。すなわち、強制的な手段を用いて、人々の不適切な食事行為を矯正し、避け、減らし、食事問題の発生を減らし、食事秩序を優化させる。食事管理学はその下位に食事経済学、食事法律学、食事行政学、食事数値制御学という四学科が属している。食事理学は学科横断の知識体系である。
(2)食事教化学:食事教化学は、柔軟性を備えた手段による人類食事行為の規範化を研究する知識体系である。いかに教育を通じて正確な食事行為を伝承するか、不適切な食事行為を矯正するのか。いかに優れた習俗が伝承されたか、いかに醜悪な習俗を排除するのか。食事教化学は学際的な知識体系であり、その下位には2つの学科が含まれる:食学教育学、食事習俗学である。食事教化学は学際的知識体系である。
(3)食事歴史学:過去における人類の食事行為及びその法則を研究する知識体系である。食事歴史学
  の役割は、祖先の摂食者健康、食物獲得、食事秩序という面で得られた経験を参考とし、現在の食事
  行為を是正することを指す。食事歴史学は学際的知識体系である:下位には直捕食史学と馴化食史学という二学科が含まれる(図3参照)。
図3食学基本体系
3 
三、食学科学体系を構築する意義について
   食学は新たな知識体系で、食事は各個人の健康や寿命と密接な関連があり、また人類社会の発展とも密接な関係がある。そのため、食学の確立は全体的な認知を備えた学術的価値でもあり、また食事問題解決のための実用的価値も備えている。さらに、各個体の健康のための指導的余地や、人類全体が前進を続けるための牽引的価値をも併せもっている。
   中国の国情からみると、食品安全問題は、食品科学だけに依存するだけでは不十分であり、系統的な食学知識体系が必要である。「健康中国」という戦略を実施するには、医学だけでは足りず、体系的な食学知識体系も必要である。「農村振興」という戦略の実施についても、農学だけでは十分ではなく、体系的な食学知識体系が必要である。「食を以て天と為す」では食の重要性を、「食政を政治の主とする」では食の優先性を、「食学による治理」では根本から食を管理することの重要性を強調している。人類の持続可能な発展を実現させるのに系統的な食学知識体系が必要とされるのである。
   具体的に述べれば、食学の価値は主に八つの面にみえる。第一:人類の食事に対する全体的な認知体系の構築、第二:人類の食事問題に対する全体的な解決策の提示、第三:食事と他の物事との関係整理、第四:人類の持続可能な発展のための支柱の提供、第五:人類の食事効率の大幅な向上、第六:各個人の寿命の延伸、第七:持続可能な産業の分類方法に関する提起、第八:「食業文明時代」理論の提起、である。 

(一)食学により構築する人類の食事に対する全体的な認知体系
 食学科学体系を確立する以前は、人類の食事に対する認知には大量化、割拠化、断片化という問題や、それらの問題がもたらした誤認や盲点が生じていた。これらの大量化、割拠化、断片化の認知は、寓話でいう「盲人、象をなでる」のようなものである。食学の「3-13-36」体系は、はじめて摂食者健康、食物獲得、食事秩序を一つの全体としてまとめた。食学は、現代科学体系における食事関連科目の認知の限界をから脱却し、より高度な視点から食事を観察し、人類の食事に対して全体化した認知と整理とを行なう。
   食学の「3-13-36」の全体的な認知体系の指導の下で、食学はわれわれに全ての食事問題を編みこんだ大きな網をもたらし、理論や実践の誤認点を明らかにし、かつては見ることのできなかった盲点をも埋め合わせ、多くの喜びや驚きをもたらしてくれるだろう。食学科学体系の確立によって、人類は「憶測」式の認知という限界に別れを告げ、その全体における価値が部分的な認知よりも勝るのである。食学自主知識体系の構築は、現代科学体系に対する補完なのである。

(二)食学により提出する人類の食事問題に対する総体的な解決策
 食学は理論一辺倒の学科ではなく、人々に密着した理論体系である。食学の誕生は、実践の需要を満たすため、また数百万年にわたって人類を悩ませ、徹底的な解決を得られなかった食事問題を解決するために誕生したと言える。食学は全体的な認知を、部分的な認知に代替し、認知体系全体をもって食事問題を解決する。それにより少ない労力で大きな成果を実現できるだろう。
  人類の食事問題は、部分的な問題と全体的な問題とに分けられる。長年にわたって、人々は食事問題を部分的に見ていたに過ぎないにもかかわらずそれを解決してきたが、それでは部分的にしか対応できず、食事の全体的問題については打つ手がなかった。その根本原因を探ると、「頭痛がすれば頭を、足が痛めば足を治療する」というような「その場しのぎ」の解決で、全体的なガバナンス体系が欠けていたことが分かる。全体的な認知がなければ全体的な視野をもつこともできず、全体的な視野がなければ全体的な考え方も持てず、全体的な考え方を持たなければ、全体に対応することはできないのである。その点で食学科学体系の創設は、食事問題の全体的な管理、全面的な管理、徹底的な管理、持続的な管理に、確実な理論基盤を提供することとなる。

(三)食事と他の物事との関係についての整理
  食学の重要な貢献の一つは、食事と他の物事との関係を整理すること:すなわち、他の物事ではなく、食事を優先させたことだ。他の物事を優先させるのであれば、人類の生存と持続可能性とが脅かされてしまう。
   文明は食事から生じる。食事には悠久の歴史があるが、文明は後から誕生したものである;食事は優先されるべきもので、他の物事は二の次である;食事は人類文明の六要素の源であり、これは継続的に存在する客観的な法則で、変えることはできない。工業文明が台頭して以来、テクノロジーの飛躍的な発展により人類の様々な欲求が満たされ、他の物事もそれに伴って増加した。商業社会の運営メカニズムの下で、人々は往々にして無意識のうちに「他の物事優先」という決定をし、食事を二の次としている。例えば、ファストフードの登場は、他の物事のために食事の時間を縮小するものであり、食物転化系統の需要が軽視されるため、身体の健康を脅かし、損なってしまっている。人類が今日直面している社会的衝突や人口爆発、環境破壊、不十分な寿命といった問題の根源には、「他の物事優先」があるのだ。このような「他の物事優先」という行為は、社会全体の運営効率を低下させるだけでなく、個体の健康や個体群の存続も脅かすものとなっている。食事と他の物事との関係において、食学は食事優先という明確な答えを提出しており、これが食学の大きな貢献となっている。

(四)食学が提供する人類の持続可能な発展の為の支柱提供
   2015年に国際連合が採択した2015-2030の17の持続可能な開発目標(SDGs)のうち、実に12目標が食事と密接に関連している。食学は、その領域と国際連合の持続可能な開発目標とが一致しているというだけではなく、管理方法という側面においても、国際連合が提起した「社会、経済、環境という三点の持続可能な開発問題における、総合的な手段による徹底的な管理」と図らずも合致している。食事問題は人類の持続発展のために重大な妨げとなる恐れがある。
   食学の基本理念の一つは、「食事問題が徹底的に解決されなければ、人類の持続可能な発展も実現しない」ということである。食学は、人類の個体群の持続可能性に注目すると共に、食母系統という人類の故郷の持続可能性にも注目している。食学は、テクノロジーがどれほど発展し、進歩したとしても、人類が地球という素晴らしい故郷を離れることは決してできないと考える。人類が食物系統とより調和を図る方法を真剣に研究することによって、長期的な安定をもたらすための鍵となるのだ。食学の、二つの持続可能性を維持するという理念は、人類がこれまで持っていた発展のための構想に調整を加え、自らの誤った行為を反省し、人類と生態環境の持続可能な発展を実現するのに寄与するのである。

(五)食学により惹起する食事効率の大幅な向上
 食事は人類の生存に関わる重要な行為で、7000年に及ぶ文明史は、食事効率の向上の歴史でもある。しかし、かつて食事効率は往々にして食物生産領域に限られていた。その点において食学は、食事効率が食物生産、食物利用、食事秩序、社会全体を反映することを明確に指摘した。食事効率は、人工効率、面積効率、成長効率、利用効率に分けられる。この四大効率のうち、利用効率がその中核で、食産効率は利用効率に働くものであり、食事効率の向上は、社会全体の効率の向上を促進する。生産効率領域の面積効率と成長効率には、いずれも「天上」があり、今日では限界に近づいている。人工効率は現代のテクノロジー、特にデジタル技術に導かれて、大幅な向上を遂げている。利用効率には今でも工場の余地が多く残されている。食事効率の全体的な向上は、人類文明の進展という重要なシンボルなのである。

(六)食学により惹起する各個人の寿命の延伸
 食学の三大役割の第一は、個体の寿命の延伸であり、これもまた人類社会文明の重要な指標となる。空腹を満たすことは食物の数量問題であり、良質なものを食べることは食物の品質や種類の問題であり、食から健康をもたらすことは食方法問題である。この目標を実現するために、人々は自らを養う方法を習得しなければならない。食べることは人々の生存を決定づけるだけでなく、食物から疾病を引き起こすこともできるし、疾病を治療することもできるのだ。
   人類の食事の歴史を概観すると、食方法は常に重要な位置に置かれてはきたものの、科学的で全面的な総活を行ない、食方法を専門的に研究する学科は存在しなかった。科学に関する人類の著作は非常に多いが、現時点で食方法について全面的に論述し、総活した学術著作は存在しない。食学はこの面での不足を補い、食学体系の中に一連の食関連学科を設置した。それには食物、人体、食方法、食審美、食病、食療に対する認知を含むと共に、「食脳と頭脳との主従関係」、「薬食一如」、及び「食前の三識」、「食中の七宜」、「食後の二験」という食事の三段階管理などの理論を提起し、さらに人類の食事に対する指導を行なう「文字盤食方法ガイド」も発表した。これらの学科、理論、食方法指導普及は、人々へ科学的な食方法を把握させ、人類の寿命を延伸させるために貢献している。

(七)食学により提起する「持続可能な産業の分類」理論
  現代の社会では数十種の産業分類があり、そのうち「三次産業分類法」が21世紀において広範に応用されている。この理論は現代社会の発展に大きな役割を果たした。しかし、この理論の最大の問題点は、人類の持続可能な発展を支えられないことである。
   食学は「持続可能な産業の分類」を提出した。つまり、人類の生存に関する需要という角度から、社会の産業を、生存必須産業・非生存必須産業・生存脅威類産業の三点に分類する。生存必須産業とは、食物・服飾・住居(不動産)・医療等の人類の生存に必須な産業を指す。非生存必須産業とは、交通・情報・サービス・娯楽などの、生活には必要でも、生存には必須ではない産業を指す。また、生存脅威類産業とは、麻薬や軍事などの産業、及びテクノロジーの制御不能によって形成された幾つかの産業を指し、それらは人類の生存に大きな潜在的危険を及ぼす。食学は、生存必須産業を全力で発展させ、非生存必須産業を効果的に制御し、生存脅威類産業を徐々に排除するよう訴える。
  「持続可能な産業の分類」という理論の核心的価値とは、人類の持続可能な発展を実現するための有効な道筋を提供する。

(八)食学により提出する「食業文明時代」理論
  人類の発展史は、原始文明・農業文明そして工業文明という三大段階を経てきた。人類の発展と文明は今でも継続しているが、人類の次の文明とはどのような形式の文明となるのだろうか。食学は、人類の次の文明段階とは食事文明時代である、との答えを提出する。食事文明とは食業文明とも言うことができ、食業文明とは、食事文明が歴史において時代を代表した別称となる。人類の文明が始まってから、食事問題は常に存在しているが、それが徹底的に解決されることはなかった。食業文明時代とは、全人類の食事問題が全面的かつ徹底的に解決される社会段階のことである。食業文明は、人類の全体的文明、持続可能な発展文明、である;また、寿命が充分に延伸された長寿文明、人類が大量の時間を有することのできる有閑文明;人類が為すことも為さざることも抑制した文明、人類が地球で安心して暮らすことのできる、地球文明を実現するのである。
   人類は未来の理想的な社会への大きな憧れを有してきており、それはアジアの「大同思想」という理想的な社会から、ヨーロッパの「ユートピア(理想郷)」、近代の「空想社会主義(ユートピアン=ソーシャリズム)」に至るまで、古今世界中の聡明な人々による様々な構想となって存在してきたが、いずれも有効な実現方法は提起できなかった。食学は、人類の理想的な社会実現のために、明確かつ実行可能な道を描いたが、これこそが全人類の食事問題を優先的かつ徹底的に解決し、食事文明段階に進んでいく、人類にとって理想的な社会を実現するための前提なのである。

四、おわりに
   全体的な視野で食事問題を見据え、食事問題の視野から人類社会の発展をみると、食事問題は相変わらず各個人の生存・健康・長寿という面での矛盾があり、依然として人類の生存・発展・持続可能という問題となっていることが理解できる。人類の歴史を振り返ってみると、食事問題はずっと人類とともに存在し、簡単には離れない。昔からの問題がきちんと解決されず、新たな問題がまた現われた。現在、世界ではまだ約8億人が飢餓状態に陥っており、約20億人が食からの慢性病をもたらされており、数十億人が食品安全の脅威に直面している。食料資源を奪い合う衝突が絶えず、人類の食事が生態への妨害になる事態が日増しに激化している。これから分かるとおり、今日の所謂「社会文明」や「工業文明」などの概念は総体的なものに過ぎず、それは人類全体の文明ではないのだ。飢餓などの食事問題の徹底的な解決こそが、人類全体の文明における基本程な具現なのである。
   国際連合が成立して77年以来、食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)の三機構が、世界の食事問題に対応するために順次設置されたことからも、現代社会における食事問題の重要性を垣間見ることが出来る。この三機関は77年間にわたって多くの成果を挙げ、多くの問題を解決してきた。それにもかかわらず、全体的にみると、これらの機構があくまで「緊急消防援助隊」のような役割にとどまっており、30年、50年、また80年の努力を通じ、人類の食事問題を全面的に解決するための法案を出してきていない。この原因は何かというと、これは、人類が現在直面している最も複雑で根本的な食事問題を解決するための適切な理論ツールがないためであり、既存の知識体系だけでは力不足なのである。
   数百年来、全世界の科学者の客観世界に対する探究は、あらゆる分野に及んでおり、認知の深さと広さには感銘を受けている。その中には、部分的認知が全体的認知に取って代わる例が枚挙に暇がない。これも人類の客観世界を認知するための不可欠な過程である。しかし、唯一食事に関しては、全体的認知のない状態がいまだに続いている。おそらく、食に関する事柄が普通すぎるからだろうし、満腹になれば万事うまくいくからなのだろう。上述の原因のためか、現代科学体系にはこの空白が残されており、食体系を以て食事認知全体の空白を埋めている。
   食学を構築したのは中国人の視野であり、中国人の価値観で人類の食事問題を認識・分析したのである。また、東西融合の形でつくった、全人類の食事問題を解決するための自主的知識体系でもある。現在のところ、国際社会にはこのような知識体系はまだ存在していない。現代科学体系は無から有、小から大、弱から強へと今日まで発展し、人類に多大な貢献を果たした。しかし、それは依然として発展途上にあり、依然として不足や欠点が存在している。現代の科学体系は、絶え間なく補充・完善される中において発展してきたのであり、食学の構築方式は、科学体系の総合であり、総合の中に科学交叉や科学文化も存在する。
   現在、現代科学体系の結構は依然として高度に分化している状態のもとにあり、食学の構築方式は科学体系の総合でもあり、総合の中の科学交叉や科学文化でもある。食学構造の基礎的なロジックは「全体的認知を以て部分的認知に代える」ことである。食学構築の基本点とは人間本位であり、物質本位ではない。食学構築の出発点は問題志向であり、課題志向ではない。食学と既存の学科・科学体系との接続もしくは衝突については、より深く研究する必要がある。食学の構築は次の社会構造の転換を牽引し、人類の持続可能な発展を維持するのである。

参考文献

 連合国、変革我們的世界(国連は、私たちの世界を変える:持続的な開発のためのアジェンダ):2030年
可持続発展議程(2015年)[2022年]
https://documents-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N15/ 291/88/Pdf?OpenElement
  朝倉敏夫、《日本的食研究与高等教育》、楚雄師範学院学報、2019、07、(34巻第4期:pp.2-5)
  倪健民、『解決人類食事問題的全球公共産品』、人民政協報、2020.10.16(10)
  李衍華、『邏輯、語法、修辞』[M]北京、北京大学出版社、2011、pp.26-34
  劉廣偉、「食学改変世界(食品学は世界を変える[N])」、中国食品報道、2014.7.8(06)
  連合国糧農組織、穀物供給ブリーフティング[EB/OL](2022.11.4)、2022年11月19日、https://www.fao.org/worldfoodsituation/csdb/zh
  アントニオ・グテーレス、『80億の人間、人類が一つ』[N]、中国日報、2022.11.15(02)
  白庚勝、中国の食文明を後押しする『食学』、人民日報海外版、2020.8.20(07)

 

※本論文は『山西農業大学紀要・社会科学版』2023年第1号より訳出(池間里代子・呉川訳)